STOCK展

「STOCK 気づきを、備える」(MUJI BOOKS|良品計画)より出版

INSPIRATIONS

「はじまりが良ければ、結果も良くなる」 

デザインを学び始めた18歳の頃に、センスや表現力以外からでもつくることができないか、と感じていた。そこで、最初の着眼点が良ければ、結果も良くなるかもしれないと仮説を立てる。それでは、最初の着眼点をどこに置くべきか、と考えを巡らしていました。アイデアやデザインを考える手前で、人とは別の気づきや視点から作りはじめると、制作物は影響を受けて、新たな視点も評価されました。そのことで、デザイナー・建築家・アーティストなど、ありとあらゆる創造的行為に従事する人たちが、若い頃から今でも日常的に実践していることに興味を抱き、なにを見て、考え、つくってきたのかを詳しく知りました。そして「見る」ことの解像度を上げることで、着眼点となる気づきの精度も上がるのでは、と実感しました。
まずは圧倒的な量を見る。プロダクト・インテリア・建築・グラフィック・ファッション・アート・ブック・フード…どんな物・店・展覧会・企画も見る。体験する。そして、なにが良いのか・悪いのかを判断します。悪い場合は、どうしたら良くなるかと仮説を立てる。時代の空気を感じるショップやギャラリーでは、フライヤーやショップカードなども収集できるので、すぐにあふれるほど溜まるので、時間が経ったら残すもの・捨てるものと分けていきます。
これを数年続けていくと、良い物・事に気づき、めぐり合う頻度が上がり、なんだか良さそう、といった嗅覚も冴えてきます。そして、見る、判断する、考えることが、気づきのSTOCKとしてアイデア・コンセプト・デザイン・ディレクションなど、あらゆる場面で活かすことが出来てきます。 またセンスといった曖昧なものも、こうした積み重ねで少しは磨かれた気がします。


「関係性を見つける」
「見る、判断する、考える」。このことを行き来すると、いままで見えていなかった物事の関係性に気づけるようになります。 「なぜ、こうなったのか? 」という街の光景は、曖昧な関係を探るのに適しており、気になった状況や行為、工夫を撮影して溜めておきます。 集まった写真からテーマに合わせて編集することで、いくつかのトークイベントや無印良品 グランフロント大阪のOpen MUJI で開催された「ない世界」展(2013年)に、「ルールのない世界」として展示もしました。 いまでは、ある視点から対象を見て、気づき、観察、分類するフレームワークをつくり、プロジェクトをつくるためのリサーチやブランドのリサーチとしても実践しています。 

この2つの「とるにたらなかったもの・こと」を集めてきた経験が、企画の備えとなり「STOCK展 − 気づきを、備える」を考える糸口になりました。 STOCK展の収集物や参加者は、職業の専門性、年齢や性別など特別な性質では分けてはいません。ただそこにあった素朴な理由、記憶、愛着などを、収集物とその理由から表すことで人と物の関係が見えてきます。なにより収集には時間を要するので、集めているといつの間にか個人の活動や個性に深く影響していることを見つけることがきます。
STOCKから人と物のつきあい方を知り、これからの気づきの備えになればと思います。

STOCK展 企画・監修
熊谷彰博
デザイナー・ディレクター。1984年 東京生まれ。 物事の関係性や仕組みを探求し、独自の視点と考察からリサーチ・コンセプトメイキング・プランニングをはじまりとした統合的なデザインとディレクションを手掛けている。 また「ある見方、考え方」をつくり、様々な企業やブランドとともに実践している。
主な仕事に、無印良品 池袋西武 企画展「STOCK展」企画・監修・会場構成、「柳本浩市展」キュレーター、21_21 DESIGN SIGHT 企画展「雑貨展」コンセプトリサーチ、渋谷ヒカリエ Creative Lounge MOV 「aiiima」アートディレクター、オリンパス純正カメラバッグ「CBG-2」プロダクトデザインなど。 編者に、『STOCK』(MUJI BOOKS、2017)。